没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~


「こう言っては申し訳ないのですが、ログストン伯爵はなんの力もなく無害なのです。父上に敵意もありません。レオポルド派から中立派に位置づけを変えましょう」

こちらの認識さえ改めれば、オデットを娶るのに支障はないとジェラールは力説する。

しかし国王は渋い顔のままで、許すとは言ってくれない。

「これまで支えてくれた重鎮たちをないがしろにはできん」

「インペラ宰相ですか?」

「宰相もその内のひとりだ。兄上との後継争いで国が混乱に陥った時に力を貸してもらった恩がある」

「恐れながら。レオポルド伯父上がご逝去されて三十年も経ちます。そろそろ恨みを捨て、これまで排除していた反対派を懐柔する転換期ではございませんか? 私とオデットの結婚がいい契機となるでしょう」

オデットは小さな驚きの声を漏らした。

ジェラールと知り合ってからレオポルドという名を何度も耳にしたが、国王の兄だと知らなかったのだ。

オデットの反応に国王が嘆息する。

「オデット嬢は両親からなにも聞かされていないのか。ジェラールの言う通り、ログストン伯爵には王家に遺恨はないのかもしれんな。それは信じよう。だが――」