没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

国王は四十九歳で、口ひげを蓄えているせいか体格は普通でも怖そうに見える。

父子は髪と瞳の色が同じだが目鼻立ちは異なり、ジェラールはきっと母親似なのだろう。

国王に観察するような鋭い視線を向けられてオデットは冷や汗をかく。

さすが最高権力者と言うべき威圧感が漂っていた。

(失礼のないようにしないと……)

ジェラールが口火を切る。

「父上、こちらが先にお伝えしておりましたオデット嬢です」

オデットの実家の名はまだ伏せているそうだ。

スカートをつまんで腰を落とし、慣れないながらも貴族的なお辞儀をしたオデットは、緊張の中で挨拶する。

「オデット・ログストンと申します。お目にかかれて大変嬉しく思います」

「ログストン伯爵家の娘か」

国王は低くうなると、考え込んでいるかのように黙った。

レオポルド派の貴族であるのを気にしているのだろう。

それは予想していたので、ジェラールは焦らずに説得を試みる。

オデットの不思議な鑑定力により命拾いしたことや、誰からも好かれるオデットの人柄、ログストン伯爵家の現況は貧しく貴族社会から隔絶されたような暮らしぶりであることなどを説明した。