没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「ピンクのドレスにして正解だったな。可愛いオデットは何色でも着こなせると思うけどね。さあ行こう」

ジェラールの褒め言葉に頬を染めてお礼を言ったオデットは、少しだけ緊張を緩め、彼について廊下を進む。

謁見室は中央棟の二階にあり、革張りの両開きの扉を挟むように護衛の騎士がふたり立っていた。

「ご苦労様」

ジェラールに労われた彼らは返事の代わりに片足を踏み鳴らし、右腕を胸の前に構えて敬礼の姿勢を取った。

その靴音に驚いてオデットはビクッと肩を揺らす。

「大丈夫だよ。彼らは形式としてここに立っているだけだから。こういうのにも慣れてもらわないとね。ま、それは追々。まずは父上に許しをもらわないと」

ジェラールの顔つきが急に引きしまる。

王族は親子といえども馴れ馴れしい関わり方はしないのだろう。

柔らかさの消えた彼の顔からそれが窺えた。

入室したジェラールは深々と一礼し、オデットもそれに倣った。

謁見室は奥に向けて長く赤絨毯が敷かれている。

最奥は一段高く、玉座に腰かけているのが国王、ガブリエル・オーギュスト・バシュラルフだ。