没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

腕の力を緩めたジェラールが、弓なり目を細めてオデットの顔を覗き込む。

「それで返事は? 『はい』以外、言ってはいけないよ」

いたずらめかしたウインクに促され、オデットは呼吸を整えてからはにかんで答える。

「はい。殿下が大好きです。こんな私でよければ、どうぞよろしくお願いします」

「ああ、オデット。君はなんて可愛い笑顔を見せるんだ……」

我慢できないというようにジェラールがオデットの唇を奪った。

後頭部と腰に回された逞しい腕。

まつげが触れそうな距離に端整な顔があり、唇は柔らかで温かな感触を伝えてくる。

オデットのときめきが最高潮に達し、目に喜びの涙が浮かぶ。

その直後にふたりは、カディオによって手荒に引き離された。

「往来でなにをなさっておいでですか!」

「すまない、つい……」

苦笑したジェラールがオデットを引き寄せ、肩を抱く。

トマトのように真っ赤になったオデットは、いたたまれずにうつむいた。

(カディオさんに見られてしまった。通行人の皆さんにも? は、恥ずかしい……)