没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

ふたりはオデットをどのように国王に紹介するかの相談を始めていて、オデットは困惑した。

「あの、お話し中にすみません」

「なに?」

「貴族ですけど私はパーティーに参加することもありませんし、これからもカルダタンの従業員です。殿下とはお忍び中以外にお会いする機会はないと思うんです。それでも国王陛下にご挨拶しなければいけないのでしょうか?」

(殿下のお友達ですとご挨拶するのはおかしい気がするわ。国王陛下となにをお話すればいいの?)

なぜかショックを受けているようなジェラールに、カディオが気の毒そうな目を向ける。

「非常に申し上げにくいのですが、その気になられているのは殿下だけではございませんか?」

「馬鹿言うな。まだはっきり伝えていないからだ」

カディオに待機を命じたジェラールは、オデットの手を引いて近くの外灯の下に移動した。

半歩の距離で向かい合う彼はやけに真剣な面持ちで、オデットは緊張する。

(なんのお話しかしら)

辺りは薄暗くなり、オレンジ色の光に照らされる琥珀色の瞳は宝石のように麗しく、「オデット」と呼びかける声はいつもより艶めいて聞こえた。