没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

怖いくらいに真剣な目をしたジェラールにオデットは怯んだが、直後に破顔した彼が興奮気味に両手を握りしめた。

「オデットが貴族ならなんの障害もない。カディオ、お前も反対しないな?」

「はい。オデット嬢ののんびりとされたご性格に少々不安を感じますが、腹黒いご令嬢よりはよろしいかと存じます。なにより殿下がこれほどまでご執心になられるご令嬢は他にいないでしょうから、私に異存はありません」

「よし。さっそく父上に紹介しよう。ところでどこの貴族?」

ジェラールの張り切りぶりを不思議に思いつつも、オデットは初めて彼に姓を告げる。

「父はログストン伯爵です」

するとジェラールの顔がたちまち曇り、カディオは一難去ってまた一難と言いたげにため息をついた。

「殿下、ログストン伯爵はレオポルド派です」

「わかっている。だが、それは先代までのこと。爵位を継いだ現伯爵は温厚だという噂を聞いた覚えがある。田舎の領地でひっそりと暮らし、今まで王家に反意を示したことがないだろ。レオポルド派を抜けて中立派に変わったという位置づけでいいんじゃないか?」