没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

(誘っていただけてすごく嬉しい。私はきっと殿下を好きになってしまったのね)

惚れたところで王太子とは結ばれないという切なさは感じない。

そこまで先のことに考えが及ばず、ジェラールに愛されているとも気づいていないのだ。

今はただ初恋を自覚して、無欲に心をときめかせている状況である。

(王太子殿下じゃなく、ジェイさんとならデートしても許されるわよね)

「行こう」

「はい」

紳士的に差し出された手に、胸を高鳴らせながら手をのせたその時――。

「見つけました」

後ろから声をかけられて振り向くと、近侍のカディオが険しい面持ちで立っていた。

「外出のご予定は一時間のはずですが、二時間以上経っております」

ジェラールがバツの悪そうな顔をする。

「食事をしたらすぐに帰るから見逃してくれ。机上の書類は今夜中に目を通す」

「私が迎えに参りましたのは、政務を急かすためではございません。ご注意申し上げたはずです。これ以上、のめり込んではいけませんと」

渋い顔のジェラールが黙り込んだ。

一方、近侍の注意の意味を理解できないオデットは、ふたりに視線を往復させて戸惑っている。