没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

聖女の話は興味深くもっと聞きたい気もしたが、オデットはそれより気になることがあった。

「どっこいしょ」

重たい水晶玉をバロ司教が抱えて床の木箱に戻したら、祭服の襟元からロザリオがすべり出た。

金の鎖にダイヤモンドが十五粒はめられた十字架がぶら下がる、豪華な品物だ。

「そのロザリオは……」

オデットの目が釘付けになっていると、腰を伸ばしたバロ司教が十字架を摘まみ、ニタリと聖職者らしからぬ笑みを浮かべた。

「これか。先日、信者がお布施代わりにと置いていったんじゃ。どうだ、わしに似合いの立派なロザリオじゃろう」

バロ司教には聖紙を譲ってもらったり、呪いつきの宝石をお祓いしてもらったりとなにかと世話になっているが、決して奉仕精神に満ちあふれた人ではない。

信徒の懺悔に料金を設けたり礼拝では入る前にお布施を全員から徴収したりと、拝金主義的な傾向がある。

オデットに対し聖紙やお祓いの代金を請求しないのは、ブルノと飲み友達であるからだ。

おそらく勘定はブルノが支払っているのだろう。

得意げに胸を張る司教にジェラールは呆れの視線を向け、オデットは眉を寄せた。