没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

(触れそうで触れない頬が熱い。恥ずかしいけど逃げたら失礼よね。それに嫌がっていると勘違いされたら困るもの……)

近すぎる距離はすぐにもとに戻されたが、オデットの赤い顔を見てジェラールがクスリとする。

(恥ずかしい……ううん、照れている場合じゃないわ。鑑定中なんだから、集中しないと)

胸に手をあてて呼吸を整えたオデットは、ルーペを取り出し水晶の質を確認する。

「透明度が高くてとてもいい水晶です。なによりこの大きさは貴重です。今、重さを量って値段を計算しますね。鑑別書をお作りしますか?」

するとバロ司教が笑って首を横に振る。

「査定してもらいたいわけじゃない。倉庫整理をしておったら、壁に隠し扉を見つけての。この水晶はそこに納められていた。謂れを書き記したものはなく、わしより長くこの教会に奉仕している者に聞いてもわからん。だからオデットを呼んだんじゃ」

「あ、そういうことでしたか」

オデットはルーペをしまうと、水晶玉に手を触れて目を閉じた。

心の中に流れ込んでくる誰かの想いは、清らかで温かく穏やかだ。

(こんなに綺麗な感情に触れたのは初めて)