没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「これなんじゃよ」

中には古ぼけた白いシルクの布があり、それを開いたら水晶玉が現れた。

オデットの頭ほどもある大きな水晶玉が、窓からの陽光を浴びて美しく輝いている。

「大きなロッククリスタル! 本物かしら。ちょっと調べさせてください」

白い手袋をはめたオデットはジェラールにお願いして箱から水晶玉を出し、近くにあった台の上に布を敷いてのせた。

水晶はガラスと同じ物質でできているので、ガラスの偽物が多い。

簡単な見分け方として屈折率を利用した方法がある。

オデットは自分の髪を一本抜いて水晶玉に透かした。

「天然水晶で間違いないです」

「どういう判別方法?」

ジェラールが興味深そうにオデットに聞いた。

「水晶は結晶化した二酸化ケイ素が層になってできています。そのため髪の毛を透かすと二本に見えるんです。ガラス玉は結晶構造ではないので一本に見えます」

「へぇ、どれどれ。本当だ」

腰を落としたジェラールが顔がくっつきそうな距離で水晶玉を覗き込むから、オデットの心臓が大きく波打った。