没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「寄り添って歩けば寒くない。さあ、行こう」

(暖かくなりすぎて、のぼせそうだわ……)

胸を高鳴らせながら広い通りまで歩き、辻馬車を拾う。

それに十五分ほど揺られて中央区にあるリバルベスタ教会に着いた。

白レンガの外壁に鶯色の屋根。

二本の尖塔を備えており、正面の高い位置に大きなバラ窓がシンボルのようについている。

教会の鐘楼が十六時の鐘を打った。

十段の階段を上がった先には礼拝堂に繋がる両開きの重厚な扉があるが、オデットたちは端にある装飾性のない簡素な木目のドアを叩いた。

対応に出てきたのは、この教会を取り仕切るバロ司教、本人。

いつものように足首まである白い祭服を纏った司教は、薄い頭髪の上に赤紫色の小さく丸いカロッタ帽子をかぶっている。

眉毛の白髪が伸びて老爺の風情だが、肌艶はよく、背筋はしゃんと伸びた七十歳だ。

「よう来た」

オデットを微笑んで迎えた司教は、隣に立つジェラールに青い目を向け、「おや?」と眉を上げた。

「これはこれは王太子殿下ではございませんか。その恰好はお忍びですかな? オデットとはどういったお知り合いで?」