没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

日差しが暖かくても、そろそろコートが必要である。

シンプルなブラウスとスカート、その上にカーディガンを羽織っているオデットに、「寒い?」とジェラールが聞いた。

「大丈夫です」

コートを取りに戻るほどではないとオデットは足を前に進めるが、ジェラールが着ている紺色のジャケットのボタンに手をかけた。

オデットに貸すつもりなのだろう。

「あの、お気持ちは嬉しいんですけど困ります」

「どうして?」

「ジェイさんが風邪で寝込んだら大変ですし、会えなくなったら寂しいので私も困ります」

正直な気持ちをさらりと口にしたら、ジェラールが足を止めた。

その頬は赤く色づいて、照れたように口元を片手で覆っている。

(もしかして私、恥ずかしいことを言ってしまったの……?)

ジェラールの顔を見てそれに気づいたオデットは彼以上に赤面し、熱い頬を両手で挟んでそっぽを向いた。

「ご、ごめんなさい」

「謝る必要はない。かなり嬉しいから」

ジェラールがオデットの腰に腕を回して引き寄せる。

見上げれば至近距離にある琥珀色の瞳が弧を描いており、オデットの動悸が加速した。