没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「急ぎの修理品もないし、店番は私がするよ。今日はもう仕事を上がっていいから。ついでに買い物でもしてくるといい」

するとすかさずジェラールが口を挟む。

「俺も一緒に行こう。エメラルドのブローチの件ではお世話になったから直接お礼を言いたいと思っていたんだ。ちょうどいい機会だ」

ふたりが出会うきっかけとなったエメラルドのブローチは、オデットの助言に従い、臣下がリバルベスタ教会に持っていってお祓いしてもらったそうだ。

「臣下?」

キョトンとして問い返したロイに、ジェラールは土産の果物を押しつける。

「これはロイが食べるといい」

「いいの? メロンに梨にリンゴにブドウ。うわーたくさんあるな。全部大好きだ!」

「成長期の子供はたくさん食べないとな。大人の俺とオデットはデートしてくるよ」

「こんな果物いらないよ。僕も行く!」

ブルノに後ろ襟を掴んで止められたロイはジタバタしており、その隙にオデットはエプロンを外してジェラールと店を出た。

(ロイは子供扱いされると怒るのよ。あまりからかうと可哀想だわ)

並んで北へ歩き、建物の間を通り抜けた冷たい秋風にオデットは首をすくめた。