没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「あっ、ジェイさん、いつの間にいらしてたんですか?」

「来たばかりだよ。今日はいつもにもましてぼんやりだな。どうしたの?」

覗き込むように顔を近づけられて、オデットの頬が赤く染まる。

するとロイが慌ててふたりの間に割り込んだ。

「このお邪魔虫め。僕のオデットに近づくな!」

「ロイ、それは間違いだ。オデットは誰のものでもない。強いて言えば彼女自身のもの。君には、オデットの意思を尊重する姿勢が欠けている」

「難しいこと言って、かっこつけるな!」

ルネは囃し立て、ブルノはうるさそうに眉をひそめて新聞で顔を隠してしまった。

オデットがおろおろしていたら突然、ドア口から声をかけられる。

「お取込み中、すみません」

ドアベルを聞き逃してしまったため肩をビクつかせて振り向くと、襟のない綿のシャツに白っぽいベストを着た二十歳くらいの青年が立っていた。

オデットは慌てて対応する。

「こちらこそすみません。あ、あなたはリバルベスタ教会の……」

王都で最も古く由緒正しいリバルベスタ教会のバロ司教には、カルダタンに呪いの宝石が持ち込まれた際に浄化をお願いしている。