没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「お子様って言うな!」

ふたりの言い争いがヒートアップしていくけれど、オデットは止めるのを忘れてぼんやりと立ち尽くしている。

(ルネに違うって言えなかったわ。もしかして私、殿下に恋をしているの?)

素敵な宝石に胸を高鳴らせても、異性に夢中になった経験が前世も含めて一度もない。

どこか抜けている性格も相まって、オデットの思考が斜めにずれる。

(家族に会いたい気持ちを〝恋しい〟と言ったりするわよね。それも恋で、殿下の顔を毎日見たいと思うのも恋? そもそも恋ってなにかしら?)

オデットが首を傾げて悩む中、またドアベルが鳴って今度こそジェラールが現れた。

「こんにちは。まだティータイムは続いているようだね。間に合ってよかった」

走ってきたのか息を少々弾ませたジェラールが、土産と言って高級フルーツを詰め合わせたバスケットをオデットに差し出す。

けれどもまだ考えに沈んでいるオデットは、返事をせず受け取りもしなかった。

視界に入っているのにジェラールに気づいていないのだ。

「オデット?」

顔の前で手を振られて、やっと我に返る。