没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「これをどこから入手されましたか?」

雰囲気をまた変えたオデットにジェラールは戸惑いつつも返事をしてくれる。

「懇意にしている、ある伯爵からだ。夜更けまで書類に目を通す日々で眼精疲労が激しいと話したらそれを譲ってくれた」

古代では眼病治療の呪術にエメラルドが使われていたという話を、贈り主は知っていたようだ。

しかしながら真の目的を察しているオデットは、ますます険しい顔をして由々しき事実を口にする。

「エメラルドから呪術の気配を感じます。ご体調を崩された原因はきっとこれです」

宝石というものは人の想いを吸収しやすい性質がある。

そのため呪いをかけて贈られることもあり、オデットはこれまでそういった石に何度か出会ってきた。

(私が死んだ時と同じくらい強い呪いだわ)

オデットには前世の記憶がある。

この世界には存在しない日本という国に生まれ、黒い瞳と黒髪のごく普通の女性だった。

ひとつ特殊な点をあげるとするなら祖母がお祓いを生業とする拝み屋で、霊感体質を受け継いだことだろうか。