没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「オデットただいま! すごく嬉しそうだね。そんなに僕が待ち遠しかった?」

「ロイ……。お帰りなさい、待っていたわよ。お腹空いてるでしょ。ルネが焼いてくれたビスケットを食べて。紅茶も淹れるからちょっと離れてね。火傷したら困るわ」

「あれ?」

オデットが急に元気をなくしたので、ロイは顔を覗き込む。

「疲れてる? それとも風邪?」

心配するロイを、頬杖ついたルネがビスケットに手を伸ばしつつ笑う。

「恋煩いよ」

「僕に?」

「ロイの馬鹿みたいに前向きな性格は嫌いじゃないわ。でもいい加減諦めなよ。オデットが恋しているのはジェイさんだから」

ジェラールの正体をロイはまだ知らない。

ルネがブルノに話してしまった時にオデットが慌てて口止めしたので、ブルノ以外には秘密が漏れていないはずである。

ムッとした顔のロイがテーブルをバンと叩いた。

「それ、ルネが勝手に思ってるだけだろ。オデットは見た目に騙されたりしないぞ。ルネじゃあるまいし」

「なんですって? 私はね、あんたが泣いたら可哀想だから親切に教えてあげたのよ。ねんねのお子様ロイがジェイさんに勝とうとしても無理だから」