没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

仕事用のエプロンには大きなポケットがひとつあり、そこから白い綿の手袋を出して装着すると、そっとブローチを受け取る。

(綺麗な緑色)

四角い面を大きくとったファセットカットのエメラルドが、とげとげしたデザインの銀の枠に収まっている。

周囲に小粒のダイヤが散らされて、貴族的に豪華なブローチだ。

感嘆の吐息を漏らした後はおっとりした顔つきが急に引きしまり、凛とした雰囲気を醸し出す。

ポケットから愛用の十倍ルーペを取り出すと、窓からの自然光に透かして石の状態を確認した。

「重さは三十カラットくらいね。エメラルドはもろいのに、細分せずこの大きさのままでブローチに仕立てるカット技術は一級品よ」

その他、インクルージョンと呼ばれる内包物が少なくて透明度が高いことなどをオデットは早口で話し続けた。

説明しているのではなく心の声が漏れている状況なのだが、鑑定に夢中の今はそれさえ気づいていない。

「まさか、こんなに素晴らしいエメラルドに出会えるなんて、ここに来てよかったわ。でも――」

言葉を切ったオデットは、顔の横にブローチを掲げると深刻そうに眉を寄せた。