没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

それでも馬に乗ったふたりをよく追いかけてこられたものだ。

その疑問がジェラールの顔に表れていたのか、ルネが鼻を鳴らした。

「白馬にふたり乗りって目立つのよ。童話の王子様みたいじゃない。走って追いかけて途中で見失ったけど、道行く人に聞きながら進んだら、ここに辿りついたわ。私に内緒にしたかったんなら、もっとコソコソしなさいよ」

ツカツカと庭に入ってきたルネは、バツが悪そうなブライアンの前に腰に手をあてて立った。

「私になにか言うことはない?」

「騙してすまない……」

「本当よ。乙女心をなんだと思ってるの。この婚約指輪、使い回しの上にピンクダイヤじゃないなんて。オデットに指摘された時にあんたなんかを庇わず、詐欺を疑っておけばよかったと後悔しているわ」

ルネは指輪を外すと、押しつけるようにブライアンに返した。

「ルネさん、夫が大変申し訳ありませんでした。家を売ってお金は必ず返しますので、どうか……」

夫人は祈るように指を組み合わせ、ルネに許しを請う。

ルネが被害を訴えればブライアンは捕縛されて裁判にかけられる。

禁固刑が言い渡されたら、母子は生活していけず死活問題だ。