没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「いち、に、しゃん、ご、じゅう。おねぇしゃん、ぶりゃんこ、もっといっぱい!」

「う、うん。よーし、もっと強く押すよ。しっかり掴まっていてね」

幼いエミーは無邪気にはしゃいでいて、それが救いでもあり、この子の未来を案ずれば無垢な笑顔に胸が締めつけられもする。

(ブライアンさんを許してあげたいけど、それはルネが決めることだわ)

ジェラールも病弱な夫人を前にしてはブライアンを責められないようで、難しい顔をして黙ってしまった。

夫人は涙を流し、もう一度頭を下げた。

「ルネさんに私もお詫びしに伺います。夫がいただいたお金もお返しします。どうかそれで許してください」

「返すって言ったって……」

困り顔のブライアンが家屋に振り向いた。

ルネからの援助は生活費に消え、財産はこの家しかないと言いたげだ。

「あなた、この家を売りましょう。それでルネさんと、他の騙したお嬢さんたちに返金しましょう」

「どこに住めばいいと言うんだ。当てがないだろ。それにこの家には亡くなった君の両親の思い出がしみついている。手放すのは君にとって身を切られるようにつらいはずだろ」