没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

どこでなにをしているのかまではわからなかったが、少なくとも洋品店で働いているというのは嘘だと思っていたそうだ。

「まさか、結婚詐欺だなんて……」

涙を浮かべた妻から、ブライアンはたまらず目を逸らした。

ホッジ夫人は夫に掴まっていた手を離すと、ジェラールに深々と頭を下げる。

「夫が騙したルネさんという方は、あなたのお知り合いでしょうか。大変申し訳ないことをしました。それは私のせいなんです」

ホッジ夫人は出産時に生死の境をさ迷って以降ずっと体調が思わしくないそうだ。

月の半分は熱を出し、起き上がれないほどに具合が悪い日もあるという。

仕事を度々休まねばならなくなったブライアンは、五年勤めていた食品販売店を解雇された。

新しい勤め口を見つけて働きだしても、同じ理由でクビにされてしまうので、結婚詐欺師に辿りついたのではないかという話だった。

(そうだったの。可哀想ね……)

オデットはホッジ夫妻に深く同情した。

本心ではブライアンも悪に手を染めたくなかったのではないかと思うと、責める気持ちが急速にしぼんでいく。