没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

ジェラール自身は体調不良を軽視しているようだが、少し話しただけで息苦しそうなのでオデットはますます心配になる。

(横になった方がいいんじゃないかしら。王太子殿下はご病気中も休めないほどお忙しいの?)

綺麗に整頓された机上には、書類が二十センチほどの高さに積まれていた。

どんなに具合が悪くても仕事をしなければいけないのかとオデットは気の毒に思う。

けれども書類の横にそっと置かれたある物に気づくと、一瞬で同情を忘れて目を見開いた。

(エメラルドのブローチ。見たことがないほど大きな石だわ。鑑定したい!)

素晴らしい宝石に出会うたび、興奮して周囲の状況が見えなくなるのはオデットの悪い癖である。

目を輝かせたオデットは、胸の前で指を組み合わせてジェラールに懇願する。

「そのブローチを見せていただけませんか? 私、宝石を見ると鑑定したくてウズウズするんです!」

「え? あ、ああ。構わないが……」

ジェラールの引き気味の返答や、近侍と官人の睨むような視線も気にならず、オデットは張り切った。