没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「少しも反省がないようだな。婚約指輪を返してもらったら、次は酒場の女性に贈るのか?」

「へぇ。俺のことをよく調べているな」

「ブライアン・ホッジ。お前は偽りだらけの人生に虚しくならないのか? 妻子にまで嘘をついて。結婚詐欺で稼いだ金で養われても、お前の家族は喜ばないだろ」

それまでふざけた笑みを浮かべていたブライアンが急に瞳を険しくし、声を大きくする。

「お前になにがわかる。こうでもしないと暮らしていけないんだよ!」

(王都には働き口がたくさんあるのに、どうして真面目に働かないの?)

「帰れ!」

怒鳴られてオデットが肩をビクつかせたら、ジェラールが背中にかばってくれた。

その時、ドアが開く音がして、ブライアンがハッと振り返る。

「あなた、もうやめて」

弱々しい声で呼びかけ、ふらつきながら庭に出てきたホッジ夫人は、二十五歳くらいに見えるほっそりとした美人だ。

先ほど熱があるような会話をしていたが、ただの風邪とは思えないほど血色が悪くやつれている。

娘のエミーも一緒に出てきて、外で遊べると喜びブランコによじ登った。