没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

対応に出てきたのはブライアン本人で、険しい面持ちのジェラールと、その背後から顔だけ覗かせたオデットに目を見開いた。

けれども驚きは一瞬だけで少しも慌てることなく、室内に向けて声を張り上げる。

「職場の人が来ているから庭で話をしてくる」

中から女性の声がしたが、なにを言ったのかまでは聞き取れない。

「いや、挨拶はいらないから。熱があるのに起きてきたら駄目だ」

今度は舌足らずな子供の声がして、どうやら父親と一緒に庭に出たがっているようだ。

「エミー、後で遊ぼう。お父さんは大事な話があるんだよ。お母さんといい子で待っていなさい」

妻子がいると隠さない彼に、オデットは面食らった。

(普通は嘘がバレたら焦るわよね。どうして平気な顔をしているの?)

ブライアンはドアを閉めると庭の端に移動し、こちらが問い詰める前に勝手に幕引きを図る。

「わかった。ルネとは別れよう。これでいいだろ?」

ヘラヘラしている彼にオデットの怒りが加速する。