没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

庭木の幹に馬を繋いだジェラールが、オデットの疑問に苦々しげに答える。

「あの男の本名はブライアン・ホッジ。妻と三歳になる娘の三人家族だ。ここはホッジ夫人が亡き両親から相続した家で、財産と呼べるのはこれだけ。一家の経済状況は貧しい」

確かに古い家はあちこち修繕が必要なようだが、職人に頼む余裕がないのか屋根瓦の欠損箇所には板があてられ壁のひび割れには素人が補修したような塗りむらがあった。

ルネからの援助は一家の生活費に使われたのだろうかと、オデットは眉尻を下げる。

「酒場で遊ぶのに全額を使ったわけじゃないのね。それなら……」

納得とまで言えないが怒りの目盛りを少し下げたら、ジェラールが嘆息した。

「オデットは優しいな。あんな男にほんの少しも同情はいらないんだよ。酒場で女性従業員を口説いていたと言ったね。おそらく次のターゲットにしようとしていたんだろう」

次のターゲットとは、ルネのように騙して金を貢がせる対象という意味だ。

ジェラールが臣下に命じて調査したところ、結婚をチラつかせて金銭援助をさせていた女性はルネの他にふたりいるとわかった。