没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

するとバランスを崩してまた悲鳴をあげた。

ジェラールは楽しそうに笑っている。

「大丈夫。大切な君を落とすようなヘマはしない。俺を信じて」

「は、はい」

「いい子だ。鞍の縁に掴まってごらん。そうそう。お尻はそこに」

ジェラールに手伝ってもらって鞍に横座りし、彼はその後ろに飛び乗ってオデットを抱えるように手綱を持った。

「俺の胴に腕を回して掴まって」

素直に指示に従えば、程よく引きしまった筋肉や体温を感じてときめいてしまう。

(落ち着いて。殿下は紳士だから女性には分け隔てなく優しいのよ。勘違いしたら後で泣くことになるわ)

高鳴る鼓動をなんとか宥めすかし、速足で歩き出した馬の背に揺られること十五分ほどで目的地に着いた。

「ここがあの男の家だ」

南地区の海辺に近い閑静な住宅街に建つ古い一軒家。

赤瓦の屋根と白漆喰の壁の平屋で、ライラックやミモザの木が植えられた小さな庭がある。

芝生には手作りの木のブランコがあって、座面に布製の人形が置かれていた。

馬から降ろされたオデットは、ブランコと人形に目を丸くする。

「子供のいる家。その子はもしかして……」