没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

ルネがブンブンと手を振り満面の笑みで見送ってくれるから、オデットは後ろめたい気持ちになる。

(ごめんね。でもルネには幸せになってほしいから、あんな人と結婚してほしくないの)

少し広い道に出ると道の端に公共の馬留めがあり、立派な毛艶の白馬が一頭休んでいた。

「盗まれないようにちゃんと見張ってたよ」

ジェラールにそう言ったのは十歳くらいの街の少年だ。

「ありがとう。はい、これはお礼だよ」

「わっ、銀貨だ。ヤッター!」

飛び跳ねて喜んだ少年が走り去ると、ジェラールは白馬の顔をよしよしと撫でた。

「馬で来たんだ。乗って」

「あの私、乗馬経験がないんです。どうやって乗ればいいのかわかりません」

「大丈夫、手伝うよ」

ジェラールの腕がオデットの太ももに回され、軽々と抱き上げられた。

心臓が大きく波打ち赤面すると同時に、急に高くなった視界に驚いて思わず彼の頭にしがみついた。

「オデットの胸は柔らかいな。永遠に顔を埋めていたいけど、このままでは馬に乗れない」

「キャア!」

笑いを含んだ声で指摘され、慌てて彼の顔から胸を離そうとする。