没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

けれどもルネが婚約者に騙されているという話を聞かされ驚いているブルノは、ジェラールの装いにまで意識が回っていないようだ。

「ブルノさん、行ってきます」

「ああ、気をつけてな。ジェイさん、オデットをよろしく頼むよ」

「お任せください」

ふたりがドアを開けて外へ出たら、バスケットを腕にかけたルネと鉢合わせた。

「あっ!」

オデットはビクッと肩を揺らす。

ダニエルについてルネに暴露するのは決着がついてからにしようと思い、先延ばしにしている。

(教えようと思ったんだけど、婚約指輪を嬉しそうに見つめるルネが可哀想ですごく言いにくい。どう話せばルネの傷が浅くすむかしら……)

直接ダニエルに謝罪させるのではなく、詫び状を書かせる方がいいかもしれない。

平気で人を騙すような男だから、謝らせようとしても逆にひどい言葉を浴びせそうで心配していた。

なにも知らないルネは今日も快活そうな笑みを浮かべている。

「出かけるの? 焼き立てブルーベリーマフィンでティータイムにしようと思ってきたんだけど」

「う、うん。ちょっとジェイさんと、ええと、その……」