没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「こっちのこと。さて、奴の顔がわかったから身元の調査はすぐ済むだろう。追い詰める際にはオデットも行く?」

「はい。ぜひご一緒させてください。ルネに心から謝るよう説得します」

両手を握りしめて意気込めば、クスリとしたジェラールによしよしと頭を撫でられた。



時刻はティータイム時。

仕事用のエプロンを外したオデットは、カウンター内にいるブルノに頭を下げる。

「たびたびお店を抜けてすみません」

「いや構わないよ。見ての通り客はいないし、事情はわかったから」

酒場で偽王城騎士のダニエルと会ってから三日が経ち、素性が判明した。

事情とは、これから問い詰めに行くことだ。

オデットの隣にはジェラールがいる。

『今日は仕事が詰まっていて急いでいる。悪いがこれからすぐに出かけよう。一時間で決着をつける』

急にやって来てそのように話した彼は、庶民服に着替えている暇もなかったようで貴族的に上質なブラウスとズボンを身に着けている。

宝飾品は外して上着は小脇に抱え、変装用の眼鏡はかけているものの、醸し出される気品から王太子だとバレないかオデットは心配していた。