没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「額にですか?」

彼からの額へのキスは二度経験しているが、少しも慣れることなく胸はしっかりと高鳴っている。

「唇だよ」

「ええっ⁉︎」

「俺だって我慢しているというのにダニエルにされそうになっていただろ。俺の可愛いオデットに暴挙を働くとは許せないな。あの男、後々泣くほど後悔させてやる」

嫉妬むき出しで顔を近づけられ、オデットは慌てた。

ジェラールからのキスは嫌ではないけれど、唇は困る。

(そんなことされたら好きになってしまいそう。没落令嬢の私が王太子殿下に恋しても、失恋するだけなのに)

「あの、あの」

焦りで拒否する言葉が出てこないが、キスされたのは唇に触れないギリギリの位置だった。

(あれ?)

体の距離を戻した彼は残念そうな目をする。

「俺はダニエルのような真似はしたくない。オデットの心がもう少し俺に向くまで、唇へのキスは取っておくよ」

(無理やりはしないのね。よかった……)

ホッとすると同時に寂しい気もして、無意識に自分の唇に触れた。

それを見たジェラールが口の端を上げる。

「もう少しか……」

「え?」