没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「へぇ、王城騎士が暴行事件を起こすのか。愚弄するなよ。所属と名前は? 本物の騎士ならば胸に階級章があるはずだが、なぜつけていない?」

険しい面持ちのジェラールは変装用の眼鏡を外して素顔を見せた。

王城騎士ならば王太子の顔を知らないはずがないのに、ダニエルは気づかない。

しかしながら騎士の身分を疑われたことには焦っているようで、話しを切り上げようとする。

「階級章はつけ忘れただけだ。俺はもう行く。大事な任務中でお前ごときに構っていられないんだ」

ダニエルが逃げるように立ち去ると、オデットはようやくジェラールの腕から解放してもらえた。

胸に手をあて高鳴る鼓動を静めようと深呼吸したら、心配そうに顔を覗き込まれる。

「怖かったよな」

(この激しいドキドキは、殿下に抱きしめられたせいなんです……)

その想いは恥ずかしいので打ち明けられず、「大丈夫です」と伝えて頭を下げた。

「助けてくださってありがとうございました。でもどうしてここにいらっしゃるんですか?」

「ああ、それはね――」