没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

強い力でオデットを引き寄せ腕に抱きしめた彼は、お忍びの装いで周囲に護衛の騎士はいない。

「大丈夫? なにもされてない?」

焦り顔で問われたオデットは、驚きで声を出せずにコクコクと頷いた。

(本当に助けにきてくれた……)

恐怖から解き放たれても動悸が治まる気配がないのは、頼もしい腕の中にいるせいだ。

しかし、ときめいている場合ではない。

痛そうに顎を押えて立ち上がったダニエルが、足を踏み鳴らして怒鳴りつける。

「なんだお前は。この子の男か?」

「下品な言い方は好まない。恋人と呼べ」

(ええっ!?)

一瞬真に受けて驚いたオデットだが、お忍び中の王太子の彼とどんな関係かを説明するのは自分でも難しく、便宜的に肯定したまでだと受け止めた。

「たかが恋人風情が殴りつけていい理由にはならないぞ。この騎士服を見ろ。楯突けば牢にぶち込んでやる」

「それはこっちの台詞だ。オデットの唇を奪っていたら、この程度ですまさないところだった」

「庶民がなに言ってやがる。俺は王城騎士だぞ?」