没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

両手を握りしめたオデットは、表情に慣れない険しさを取り戻して質問を続ける。

「これから仕事だとルネに言っていたのにどうして酒場に入ったんですか。ルネから金銭援助の話は聞いています。ルネのお金で遊ぶのはやめてください」

するとダニエルが急に周囲をきょろきょろと確認し、人差し指を口にあてた。

「しっ。声落として。これは機密だが、実は今まさに任務中だ。この店が悪党集団と繋がっているという情報があって、客のふりして調べている。酒代は国から支給されたものだから、ルネのお金じゃない。そこは安心してくれ」

「そうだったんですか」

あっさりと信じたオデットは深々と頭を下げて謝罪した。

「すみませんでした」

(私ったら、勝手な思い込みで大事な任務を邪魔してしまったわ。短絡的で本当に申し訳ない)

「わかってくれたらいいよ」

許してもらえてホッとしたら、壁から背を離したダニエルに腕を掴まれた。

「あ、あの……」