没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「ごめん。この子、俺に気があってさ。ちょっと優しくしてあげたら恋人になれたと勘違いしたみたい」

(なに言ってるの!?)

店主や従業員に「あらあら」と笑われた。

「迷惑かけたくないから外で説得してくるよ。今日の飲み代はつけといて」

オデットを抱えて店外に連れ出したダニエルは、隣の建物との間の狭い路地でやっと手を離した。

オデットは飛びのくように下がって、ダニエルと対峙した。

「嘘ばかりついて。ルネを騙したんですか?」

垂れ目では威力がないが、精一杯キッと睨んで問い詰めた。

それなのにダニエルは酒屋の外壁に背を預け、転がっている酒瓶を爪先で遊ばせて余裕の顔をしている。

「君は隣の店で働いているルネのお友達だったな。なにが嘘だって?」

「まずは名前です。ダニエルさんなのかマシューさんなのか、どっちなんですか?」

「どっちも。ダニエル・マシュー・ヘインズ、だよ」

「えっ」

マシューはミドルネームだと言われ、オデットはキョトンと目を瞬かせる。

「そうなんですか。偽名だと思ってすみませんでした」

名前については納得したが、まだ疑惑は残っている。