没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~


三十歳くらいでえんじ色の上着をきっちりと着こなし、堅物そうな顔をしている。

瞳は赤茶で、同じ色の肩下までの髪をひとつに結わえていた。

執務机の横に立っているその人に、王太子が「カディオ」と呼びかけた。

「かしこまりました」

主が口にせずとも用件を心得たとばかりにこちらに向かってきた彼に、官人が会釈している。

「近侍殿、殿下のご体調はよろしいのですか?」

「ご無理をなさっておいでです。お止めしても政務が滞れば民が困ると言って聞かないのですよ。まったく」

嘆息した近侍がちらりと肩越しにジェラールを見遣り、戻した視線をオデットに振った。

「それでこの者は?」

「西地区にあるアンティークショップ、カルダタンの従業員です。不思議な力があると巷に聞きましたので、殿下のご病気についてなにかわかればと思い連れて参りました」

「そうですか」

近侍はオデットの頭から爪先までに視線を流し、微かに眉をひそめた。

普段着の上に店のエプロンを着たままなので、ジェラールと謁見するのに相応しくない人物だと思ったのだろう。