没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

その店は南東に六ブロックほど進んだ場所にあり、のんきにてくてくと五分ほど歩いて気づく。

(私、ダニエルさんの後をついていってるみたい)

歩幅が違うので徐々に距離は開いているものの、二十メートルほど先に濃いグレーの騎士服の背中が見えていた。

(これからお仕事だと言っていたのに、どうして同じ方向なのかしら)

王城へ行くなら北東へ向かうはずで、この先にあるのは理髪店に服屋に本屋、大衆食堂や酒場など、庶民向けの小さな繁華街だ。

おかしいと疑問を持ったオデットは見失わないよう歩調を速める。

(殿下に注意されたけど、接触しなければいいのよね)

呼び止めるのではなく行き先を確かめるだけなら大丈夫だと、自分に言い訳する。

誰かを尾行するのは初めてなので緊張に鼓動は高鳴り、いけないことをしているような気持ちになった。

必要以上にこそこそしているためか、通行人に不審そうに見られつつ住宅街を進む。

前方に遅咲きの赤いバラを咲かせた民家が見えた。

その前でダニエルが急に足を止めたのでオデットは慌てて隠れる場所を探す。

けれども彼は振り向かず、バラに手を伸ばして一輪を手折った。