没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

微笑む彼から目を逸らしたオデットは、大好物のパイに集中しようと口いっぱいに頬張った。



数日が経ち、オデットは十五時で仕事を上がらせてもらい出かける支度をしている。

カルダタンの休みは二週間に一度しかないが、用事がある時は出かけていいし疲れたら休んでもいいと言われているのでむしろ働きやすい。

今日はこれから理髪店に行こうとしている。

(この前、自分で髪を切ったらガタガタになっちゃってルネに直してもらったのよね。お金がもったいないって言わずにお店で切ってもらうわ)

「ブルノさん、行ってきます」

シンプルな水色のワンピースを着たオデットは、外に出て空を見上げた。

夏も終わりに近づいて、心地いい日差しが降り注いでいる。

(あの雲、ドーナツみたい。コロンベーカリーはドーナツも美味しいのよ)

そう思って右隣の店舗を見ると、ちょうどルネが出てきた。

声をかけようと思ったら長身の男性がルネの後から通りに現れたので、上げかけた手を引っ込めた。

(ダニエルさんだわ。今日は騎士のお勤めはお休みかしら?)