没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない～下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です！～

慌てて飛び出していくルネを、オデットは顔を曇らせて見送った。

「座りなよ。焼き立てパンを食べたかったんだよね？」

ジェラールが手で割って半分にしてくれたので、オデットは彼の隣に座りアップルシナモンパイから手に取った。

歯を立てるとサクッと小気味いい音がして、パイの香ばしさとリンゴの甘酸っぱさを感じる。

とても美味しいけれどルネの婚約指輪が気になって、うまく食事を楽しめない。

「ダニエルという男を怪しんでいるの？」

言い当てられてオデットは目を丸くした。

「どうしてわかるんですか？」

「俺もそう思ったからだよ。さっきも言ったように、妻帯者の王城騎士は城下に住まうことが許されている。これは間違いない」

ルネと毎日一緒に過ごしたくない理由があるのか、もしくは王城騎士という身分自体が嘘かもしれないとジェラールが眉をひそめて推測を語った。

「ダニエル・ヘインズと言ったね。在籍しているかどうかは調べればすぐにわかる。それは俺に任せてくれ」

「ありがとうございます。あの、ルネには……」