没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「それにこの石にはダニエルの愛が込められているの。プロポーズされた時、本当に嬉しかった。私はこれが好きだから本物のダイヤと交換してほしくない。婚約指輪の価値は値段じゃないわ」

「うん、わかった。余計なこと言ってごめんね」

(でも……)

引っかかりを感じてオデットの心がざわついた。

指先が触れた瞬間、モルガナイトにしみ込んだ想いが流れてきたのだが、それはダニエルの愛情ではなく若い女性の気持ちだった。

(四人の女性の強い想い。裏切られて悔しいという……。婚約指輪なのに新品じゃないようだし、どうして?)

ダニエルはピンクダイヤを宝石商から買ったと言ったそうだが、もしかすると資金不足で中古の指輪にしたのかもしれない。

そこが嘘なら、モルガナイトだと知っていた可能性もある。

裏切られたという恨みの感情が四人分もしみ込んでいるのも気になるところだ。

オデットの目が不安げに揺れたら、店の外から娘の名を呼ぶコロンベーカリー店主の大声が聞こえた。

「ルネ! この忙しい時に油売ってないで戻ってこい!」

「いけない、長居しすぎた」