没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

ピンクダイヤの宝石言葉は〝完全無欠の愛〟で、どうしてもルネに贈りたいとダニエルは奮発したらしい。

そのせいで生活費が足りないと言うので、ルネが援助したそうだ。

「ダニエルは宝石商に騙されたのかも」

「それは大変! 鑑別書を作ろうか?」

ダイヤモンドの品質が書かれたものは〝鑑定書〟と言い、それ以外の石は〝鑑別書〟である。

その石がどんな種類で、天然か人工か加熱や漂白などの処理が施されているかなどが記されたものなのだが、前世のように科学的な鑑別ができる精密機器がないので、この世界では宝石鑑定士の見識眼による証明書となる。

ピンクダイヤと偽ってモルガナイトの指輪を売りつけた悪徳宝石商に、オデットが書いた鑑別書を見せればきっと謝罪して交換してくれるだろう。

「ルネ、指輪をもっとよく見せて」

オデットの指先がモルガナイトに触れたら、ルネが慌てて左手を引っ込めた。

(あれ? その石って……)

「鑑定しないで」

宝石商に騙されたと知ったらダニエルが傷つくからとルネは言った。