マホガニーの艶やかな執務机は部屋の中央にドンと構えていた。

その革張り椅子に腰かけ、万年筆を手に仕事をしているのが王太子なのだろう。

ジェラール・クリスト・バシュラルフ。

それが王太子の名前だと馬車内で官人に教えられた。

柔らかそうなチョコレート色の短い髪は襟足のみ肩につく程度に長く、前髪が形のいい額に斜めにかかっている。

気品と遊び心を感じるお洒落な髪形だ。

顔立ちは完璧なまでに整い、大人っぽく知的な雰囲気の美形であった。

切れ長の琥珀色の瞳がこちらに向けられ、オデットの心臓が大きく跳ねた。

(なんて美しい人なの)

うら若き乙女なら一瞬で恋に落ちそうなところだが、初恋もまだなオデットは恋愛ごとにすこぶる鈍感である。

心弾ませる相手はいつも宝石たちで、今も見目麗しきジェラールに対し、ダイヤモンドを鑑賞しているような気分でいた。

(まるで五百カラットのダイヤね。クラリティは傷も不純物もない最高のフローレス。会えてよかった……ううん、もっと早くお目にかかりたかったわ。私も一応貴族なんだから)

オデットの父はログストン伯爵という。