あの時、仁さんの行動力のおかげで皆一時的に大也の病状から目を背ける事が出来たのだ。


但し、怖いシーンを見ているはずの湊さんは大也の事を思い出したのか涙を拭っていたし、ドラマのクライマックスの時に帰ってきた銀ちゃんは速攻で寝てしまったけれど。



あの日以来、1人また1人とそのドラマ視聴から離脱していく中、唯一私と仁さんだけが継続してそれを観続けていた。


その理由はただ1つ、このドラマは非常に怖いけれどそれ以上に面白いから、である。



「はい、スタート」


昔の思い出にふけっていた私は、仁さんの声を聞いてはっと我に返った。


まだ何も起こっていないのに、彼の左腕をこれでもかという程きつく握り締める。


服の上から、仁さんがいつもファッションで付けているリストバンドの感触がした。



そのドラマを見始めてから数十分後。


「待って、駄目そこ開いちゃ駄目!…うわあああほら言ったじゃん!ゾンビィィァアア!」


「あー耳!鼓膜破れるって!ちょっと腕きつい!」


電気を消してホラーモード満載になっているリビングで、私の叫び声と仁さんの決死の訴えが響き渡った。



私がありったけの声で叫び散らかす中、仁さんは驚く様子もなく冷静にドラマを見続け、ときたま余裕そうに笑い声を上げている。