ママの手料理 Ⅲ

「あっれー!?紫苑ちゃんじゃーん!お隣さんだねー!」


隣のベランダから、この観光地にそぐわない大声が鼓膜を突いた。


「あれ、大也?そっか、部屋隣だもんね」


別にベランダ同士の距離はそんなに離れていないから、大声を出さなくても十分声は聞こえてくる。


「紫苑ちゃんさー、もう荷物整理終わったのー?」


それなのに、大也はまた大声で尋ねてきた。


「あ!忘れてた!これからやるところだけどそっちは?」


「俺ー?俺はねー、」


そう叫びながら彼は室内の方を振り返り、同部屋の銀ちゃんと何か話し始めた。


しかしすぐに彼はこちらを振り返り。


「銀子ちゃんが代わりに全部やるってー!俺そっち手伝うよー!今行くねー!」


「おい誰がそんな事言ったそっから飛び降りて死ねテメェ」


同時に、銀ちゃんの鬼の様な声が鮮明に私の耳に入ってきた。


(げ、)


しかし、こんな時も明るくポジティブな彼は、


「そっち行くからちょっとどいてー!」


笑顔でそう叫んできて。


「?」


状況が掴めないものの、どいてと言われたから素直に部屋に引っ込んで顔だけ大也の方を向くと。


「何するのだい、……えぇぇぇぇえええええ!?」







彼は、宙を飛んでいた。