ママの手料理 Ⅲ

上からぬっと筋肉質な腕が伸び、窓のロックを外してくれた。


「あ、ありがとうございます」


照れながらお礼を言うと、


「景色見終わったらちゃんと荷物整理してね?僕は寝室に居るから」


上から降ってきた優しい声は、そのまま踵を返してしまった。


(仁さんも景色堪能すればいいのに…あ、夜景があるからか!)


夜、姿を変えた街の眺めをまた見れるなんて私はなんて幸運なのだろう。


怪盗フェニックスの件は未だに少し心配だけれど、渡米したこの選択は間違っていなかった。


私は笑顔を浮かべ、そっとベランダに足を踏み出した。


「…やばい、めっっちゃ高い!怖い!下、透けて見える…!」


自室から1歩外に出ると、15階だからかかなりの強風が顔面を直撃した。


しかも足元は何故かガラス張りの造りになっていて、しゃがんで下を見てみると車も人もアリのように小さくて。


(誰こんな設計した人!いくらスイートルームだからってこれは怖いよ!)


ここから落ちたら即死だ、と悟った私は、すぐに遠くの景色を見る事に専念した。



「本当に綺麗…!時間があったらビーチとか行けるのかなあ…」


その後、私はしばらくその景色を写真に収める事に夢中になっていた。


遠くで太陽の光を反射させて光る海を見ながら、そんな事をぽつりと呟くと。