ママの手料理 Ⅲ

心配になって彼の肩に手を乗せると、


「あーいや、大丈夫だ」


銀ちゃんはゆっくりと私の方を向き、ふっと息を吐きながら笑った。


「でも、さっきから具合悪そうだよ」


「車ん中で寝たから治った」


「…なら良いけど」


彼の返事に納得がいかなかったものの、彼がそう言うなら仕方がない、と私は頷いた。


ありがとな、と呟いた彼は、


「…けど、」


と、目の前に広がる光り輝くロビーを見ながら言葉を続けた。


「何か、この景色チカチカすんな……慣れねぇ、」


それもそうだ、まるで大金持ちになった気分がして私も慣れない。


「本当にね」


同調すると、彼は緩く巻かれた長い前髪の奥にある目をこちらに向け、また口角を上げた。








この時、私は彼の言った“慣れねぇ”という言葉を履き違えていた事に気が付かなかった。








「まず、僕達に与えられた部屋は15階にある2人部屋で、全部で4つあるらしい。一旦荷物を置いたら夜まで自由行動にしようと思う。今日は初日だし作戦会議もしない予定だから、7時に食堂に間に合えば何をしてても構わない。……それで、」


それからすぐ、チェックインを終えた私達は湊さんに連れられてエレベーターで15階に来ていた。