ママの手料理 Ⅲ

「…それ、で、…許されないのは分かってるんだけど、やっぱり、皆と一緒に居たくて、……」


鼻をすする伊織の声に引き戻されるように、私は彼の方へ向き直る。


大也が意識不明だった頃、用があって伊織の所を訪れた琥珀が、


『あいつの精神状態はかなり不安定になってる。俺と目を合わせる事も出来なかったし、口を開けば謝罪しかしねぇ。こりゃあ、前みたいに戻るまでに相当な時間がかかるぞ』


と、ため息をつきながら湊さんに伝えていたのをふと思い出した。


そんな状態だった伊織が自ら私達の元に姿を現し、こうして謝罪の言葉を伝え、しまいには私達と一緒に居たいと言うなんて、相当な成長ではないだろうか。



「もう、チームを裏切る真似はしないからっ、……もう一度、チャンスを、…下さいっ……」




こんなに真摯に謝って自分の気持ちを伝えてくれる人に、誰が拒絶の言葉を言えるだろうか。



(伊織に誘拐された事と怪我を負ったことは、多分一生忘れない)


伊織に身体を踏みつけられた事、階段に頭を打ちつけた事、首元にナイフが食い込んで死を覚悟したあの瞬間。


信じていた人に裏切られたあの絶望感を味わいたくないが為に、何度か疑心暗鬼になった。



それでも私は、あの事件の直後に湊さんが言ってくれた、


『伊織は、もしかしたら沢山君に酷い言葉を言ったかもしれない。…だけど、あれは本心じゃないはずなんだ』


という言葉を信じたい。