まるで麻薬の取引現場の様な雰囲気を出しながら中森さんは自分のショルダーバッグを開け、私はそこにするりと手紙を滑り込ませた。


「任せて、渡したら連絡する」


「ああもう本当に助かります、大好きです」


小声で怪し過ぎるやり取りをしていると、


「…何してんだお前ら」


後ろから、閻魔大王よりも恐ろしいあの人の声が鼓膜を震わせた。



(あ、やば)


私達がやっているのは手紙の受け渡しであり、特別悪い事ではない。


だがしかし、冷や汗は自分の意に反して流れていく。


どうしよう、と思ったその瞬間。


「じゃあ紫苑ちゃん、そういう事で!お土産楽しみにしてるからね!」


演技だとは思えない程の笑顔を浮かべた中森さんが、私の肩をバシンと叩いてきた。


「え?ああ、はいもちろん!沢山買ってきます!」


瞬時に口裏を合わせ、私は何とか窮地を切り抜ける事に成功した。


「いやあ、紫苑ちゃんは優しくて良い子だねー!…うちの先輩と違って」


「……何か言ったかテメェ」


最後に余計な一言を付け足した事により、私の後ろに居るであろう琥珀から放たれる気が強くなった気がする。


「いえ!あ、早く行きましょう琥珀さん、遅刻しちゃいますよ」


「遅刻したら昼飯お前の奢りな」