見渡す限り、人らしきものは発見できない。


(良かったー…ん?)


思わず胸を撫で下ろした私の目に止まったのは、


「あれって、…ティアラ?」


部屋の中央にある丸机の上、見せびらかす様に置かれた透明な箱の中。


何処からどう見てもティアラにしか見えない物体が、煌々とした光を放っていた。


(あれってティアラ?ん?いやティアラ以外有り得ないよね…。でも、盗んだ物ってこんなに分かりやすく置くものなの?)


全体の色は金色で、所々に大小様々な形の宝石がちりばめられているそれは、一目見て高級な物だということが分かる。


祖母から代々受け継いできたという由緒あるそれは、作られてから何十年と時が経とうと、作られた当時と変わらない美しさがあって。


深い愛情の込められたそれを身に付けるジェームズさんのお嫁さんの姿が、一瞬で想像出来た。


その光に導かれるように室内に足を踏み入れた私は、周りに気をつけながらそろりそろりとティアラに向かって歩を進めた。



(パッと盗ってサッと出れば終わる…大丈夫)


これで私も、ようやく怪盗mirageの役に立つことができる。



私がティアラを取り戻したと知ったら、皆はどうするかな。


怒るかもしれないけど喜んでくれるよね、笑顔で結婚式に参加出来るよね。