ママの手料理 Ⅲ

目の前では大也が琥珀に対する愛を大声で叫んでいたけれど、琥珀は完全無視を決め込んで。


(ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあうるせぇな、お前は蝉か)


左手が使えたら耳を塞げるのに、なんて考えていると。



「そういえば、さっき仁さんがなんちゃらって言いかけてましたよね?壱さん、人格交代でもしたんですか?」


無邪気にそう尋ねる航海の声が鼓膜を揺らし、それと同時に大也の声がぴたりと止んだ。







「……………仁が、…」


(…ん?)


長い長い間を空けて聞こえてきた大也の声が震えている気がして、琥珀はゆっくりと振り返った。


(!)


その目にとまったのは、何処か一点を見つめ、唇を震わせながら必死に言葉を紡ごうとしている彼の姿。


彼の目は何も捉えていなくて、最大限に見開かれたその大きな瞳からは止めどなく涙が零れ落ちる。


(……っ、)


その姿を見た瞬間、琥珀は自分の足元から一斉に鳥肌が立つのを感じた。


何か良くない事が起こったと、警察官の勘が…いや、怪盗mirageの勘が言っている。




あいつの身に何があった。


仁の事を毛嫌いしている大也が涙を流すなんて、余程の事が起こったに違いない。



例えば、







「…………仁が、死んじゃったっ、……!」








琥珀の頭に浮かんだ最悪の予想を、たった今、大也が口にした。