ママの手料理 Ⅲ

「ごめん、…」



一体、この期に及んで何を謝っているんだよ。



もう話さなくていい、何もしなくていいから。



仁が嫌いな闘いもしなくていい、君はただ、





生きていれば、それで十分だから。





(何で、こんなに嫌いなはずなのに…!)


流れ落ちる大量の涙を拭うこともせず、俺は止血する手に力を込める。


分からない、この状況も自分の感情も何故泣いているのかも、全部分からない。


「お願いだから、死ぬなっ…、」


俺が鼻を啜ってしゃくり上げたその時。



俺の頭に、手が乗せられた感触がした。


「この、髪……ほんと、は…」


ヒューヒューと、聞くだけで吐き気がしそうな苦しそうな音を出しながら、仁は俺の頭をゆっくりと撫でた。


「……嫌いじゃ、ない…から…」


(っ……!?)


その小さく掠れた声に驚いた俺は、涙の溜まった目で仁の顔を見た。



(っ…仁の、仁の馬鹿野郎…!)


そんな、死ぬ直前の最期の台詞みたいな事を言わないでよ。


確かに仁と俺の仲が悪くなったきっかけは彼が髪を馬鹿にした事だったけれど、それは遥か昔の出来事ではないか。


「馬鹿っ…!何でそんな事言うんだよ、」


嫌いだ、こんな奴大嫌いなんだ。